新年度が始まって,およそ1か月が経過しました。いかがお過ごしでしょうか。
2か月ほど前になってしまいますが,日本編集制作協会(AJEC)主催「第8回/編集教室」を聴講しました。
講師は,株式会社ダイヤモンド社/井上直氏の講演でした。
「書籍部門の売り上げをどう伸ばしてきたのか」,営業と編集が連携した,さまざまな取り組みを教わりました。
たくさんのヒントがつまった,充実した編集教室でした。
聴講レポートをまとめさせていただきました。よろしければ,ご一読いただけますと幸いです。
1998年,井上直氏が中途採用で入社されたころのダイヤモンド社は,雑誌部門が強く,書籍部門は売り上げが伸び悩んでいたそうです。
「書籍」の売り上げを上げるために,井上氏は営業部門にあって,「対編集者」「対書店」「対執筆者」「対読者」との信頼関係を築いてこられました。
「営業と編集」という関係は,「水と油」のようにたとえられることが多いのですが,井上氏は,反対に「営業と編集」が連携することから,パズルがかみ合うように,書籍の売り上げを恒常的に引き上げることに成功されました。
「営業と編集」の連携が成り立つことで,書店,執筆者,読者との信頼関係が築かれ,ひいては書籍の売り上げに繋がっていくことを,さまざまな視点で語られました。
特に,私が興味深く感じたことを,以下にまとめさせていただきます。
第一に,「書籍の奥付には担当編集者名を入れる」という取り組みです。編集者に,自分が関わった書籍に自信をもってもらいたいという「営業」の心遣いから生まれました。編集者も自分が担当した書籍に愛着と責任が生まれ,書店に対する営業を主体的に行うようになったといわれます。
第二に,「編集者を巻き込んで,書店PRをする」ことです。編集者が,制作してきた書籍に対する「想いやメッセージ」を書店に伝えることで,書店員の皆さんは,熱意をもって「売る」工夫をし,読者に購入してもらうための努力をします。発刊からしばらく時間が経過した書籍が,再ブームを巻き起こすケースもあ ったといいます。
第三に,「営業部門で共有する売上データを全編集者と共有する」ことです。既刊本の売上データをもとに,編集者は担当した書籍を携えて,全国の書店員の皆さんに「まだまだ売れる」という働きかけをします。この働きかけが,書店員と編集者との信頼関係を強くするというしくみにもなっています。
その他,「営業」が編集者と円滑なコミュニケーションを生むために,
などの取り組みをされています。
これらの取り組みの根底には,新刊点数を増やすだけの出版計画からの脱却姿勢が見られます。良いものや売れるものは,新刊本に限ったものではなく,既刊本にもあるという視点が必要だと力説されていました。
既刊本を売り続けるには,営業と編集との連携なくしては不可能であろうということから,井上氏は,時間をかけて確実に連携を強固なものにし,ダイヤモンド社の書籍の売り上げを伸ばすことに成功されました。
「本を売る」を「編集の仕事を造る」に置き換えると,編集プロダクションにも,「造注活動」のヒントが隠されているように思いました。