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エディットお役立ちレポート

2019-01-24 第13期第7回AJEC「編集教室」に参加して

【講義内容】◎才能開発養成講座 潜在的“創造力”の引き出し方
〜編集を通しての資質能力開発〜付:創造力を高める教育改革2020

講師:安威 誠(やすい まこと)氏
(株)学研ホーディンス顧問・元BOMB!、Momoco編集長
【講師略歴】1977年学研入社。高2コースなど学習進学雑誌担当の後、BOMB!やMomocoなどのエンターテインメント雑誌の創刊から関わり、毎月40万部の部数まで伸長させ、学研の新領域開拓にも貢献。菊池桃子、西村知美など数多くのタレントを輩出。フォトパック、メディイアミックスなど常に業界の最先端メディアに関わる経験が豊富。「大人の科学」等の商品のプロデュースに務める。経営企画室長、学研教育総合研究所長、フェローを経て学研HD顧問。

安威さんは、ちょっと特殊な姓で、自ら自分のルーツを求めて400年くらいまで遡って調べたことがあるらしい。ときには、ググってみるといいかもしれない。「日刊 スゴイ人」にこんな記事があった。(http://sugoihito.or.jp/2017/08/16262/

1990年代の後半、出版不況が始まり、バブルも崩壊したころ、株式を上場した学研は、いつか倒産さるのではないかという噂が流れたことがあった。そんななか、学研を立て直し、V字回復を成功させた時の経営企画室長が安威さんである。

今回の講演は、その成功体験ではなく、主として編集者時代に創造力を発揮した事例を取り上げ、創造力の伸ばし方について語られた。安威さんは、まだ本を出せば売れるころの話だと謙遜されていた。その時の心の持ち方が大事だという。

かんたんな講演のレジュメを次に載せるが、詳しい講演内容については、AJECのHPを参照してほしい。

講演内容はAJECのアーカイブにてご確認ください。

特に、今回の教育改革は、明治以来最大の改革であり、初めて「創造力」育成に文科省が取り組んだ画期的な改革だというのが安威さんの位置付けである。

<概略>

1.挨拶 自己紹介
2.講演の目的
3.私の編集者時代の創造力の事例
 3−1 雑誌の紙面作り 基本 例 読者投稿 高2コースのパンツの穴
      三行革命、読者ページ、モモコクラブ、巻頭大特集、巻頭グラビア特集
 3−2 雑誌紙面作り 応用 BOMB!異動 ひとりで編集工夫
 3−3 雑誌作り 応用 BOMB! チーム作り
 3−4 雑誌作り 逆境 廃刊の危機 創造力をひねり出す力
 3−5 雑誌作り 発展 雑誌、読者投稿ヒント 写真業界プリント 音楽業界カセット
 3−6 雑誌作りから映画つくりへ 新天地 映画パンツの穴
 3−7 映画つくりから雑誌作りへ 基本 映画のパンツの穴菊池桃子⇒新雑誌「Momoco」創刊へ
 3−8 雑誌作り 王道へ 伝統的雑誌への回帰 科学と学習へ
 3−9 雑誌作りから発展へ 邪道 大人の科学
4.創造力の伸ばし方とは? 最適な環境 適さない環境
 ・創造力が発揮されない環境とは?
5.組織・組織改革における創造力とは?
6.教育における創造力
 ・文科省の創造力育成の大胆プラン
7.未来、AI/ロボット時代に生き残るには? 

<講演内容について>

今回の講演では、「3.私の編集者時代の創造力の事例」を詳しく話された。

高2コースの編集部から、「BOMB!」編集部に移ったときは、編集長と安威さんの二人の組織であり、ほとんど安威さんの自由に編集活動ができたところがよかったようだ。

「4.創造力の伸ばし方とは? 最適な環境 適さない環境」の「最適な環境」に安威さんが属する編集部があったことになる。

その後は、いろいろなチームをつくったり、新しく「Momoco」という雑誌をつくったりして想像力を発揮して行く。

<質疑応答>

@教育改革の話を聞いたが、これまでの教育で育った人は、新しい教育を受けた人とうまくつき合えるのか。

→ 誰もが戸惑っているが、大事なことは、大学を出たら学びが終わるわけではないということ。むしろ、編集者は仕事のなかで、学べばよいのではないか。世の中の、一般的な、企業の歯車になっているひとは、それがかんたんにできない。

A「人と同じことをしない」ということと「読者の目線と同じことをしない」と違いは?

→ 多くの人が当たり前にしていることを記事にしてもダメ。実は、いまは誰もやっていないが、みんながやりたがっていることを見つけて記事にすることが大事。すでにみんながやっていることは面白くない。

<感想>

いちばん最初の自己紹介のところで述べられた、「創造力は全ての人にあるもので、特に幼児教育のときにしっかり教育することが最も経済効果がある」という主張が、印象的だった。モンテッソーリ教育は、自由な環境を保障し、子どもが自発的な学びを通して成長していけるような教育である。グーグルの創始者(サーゲイ・プリン、ラリー・ペイジ)やアマゾンの創始者(ジェフ・ペゾス)がこうした教育をうけて育ってきたということは、安威さんの話を聞いて初めて知った。

安威さんが常務理事をしている、才能開発教育研究財団が支援しているのが「日本モンテッソーリ教育総合研究所」である。

また、ある意味では、安威さんの学研での編集者時代というのは、まさにモンテッソーリ教育の実践の場のような印象である。

さらに、外国に行って学ぶのが大変なら、ホームステイをさせて、自宅に外国の環境をつくってしまえというわけで、自宅でホームステイを受け入れて30年という。今でも、当時にホームステイをしていた人たちが日本に来るときは安威さんの家を定宿にしているという。

この他にも、エアロビ歴20年、男の料理倶楽部をつくったり、雅楽で篳篥をやったりと多様な挑戦をしている。これからは、「定年後の生き方」についてまとめたいという。定年後の生き方は、30、40代で決まるというが持論だそうだ。

安威さんは、現在60を過ぎたばかりのようだが、こうした多様な挑戦の基礎は、おそらく彼の編集者時代につくられたもののようだ。安威さんの頭の中では、「編集力=創造力」という図式ができているようだ。だから、「日本の教育の方向性は編集力!」ということになる。

そして、そのための二つの鍵(ボタン)は、「自由」と「好奇心」だという。これは、まさに、モンテッソーリの教育のキーワードでもある。

そういう意味では、2020年から始まる教育改革の内容についての話が聞きたかった。

新教育課程では、アクティブラーニングということが提唱され、子供たちの主体的で対話的な深い学びの実現が目指されているが、それは本当に可能なのかどうか。安威さんが経験した編集の仕事はそれが可能だということを示しているように見えるが、それは教育ではないし、教育過程がそのような場を提供しているわけでもない。また、安威さんのような編集者は、ある意味では、学研でも珍しかったわけ(だから安威さんが改革しなければならなかった)で、おそらく、安威さんのような創造力が発揮されたのは、高度経済成長期という時代と学研の風土と安威さんの資質によるものが大きいと思われる。問題は、新しい教育過程で安威さんのような資質が育てられるかどうかだと思われる。

多分、安威さんが、モンテッソーリ教育を強調したり、幼児教育の経済効果を強調したりするのは、今の教育制度の中の新しい教育過程だけではそれが不可能ではないかと思われているからではないかと思った。

いずれにしても、2020年から始まる新教育課程は、安威さんによれば明治以降最大の改革だと言われているが、新井紀子さんが読解力の問題(『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』参照)を指摘しているように、いろいろな課題を抱えて、もうすぐスタートすることになる。私たちも、教材がどう変わって行くかも含めて、注視していくことが必要だと思われる。

(文責:東京オフィス 塚本鈴夫)