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エディットお役立ちレポート

2019-09-26 AJEC第14期第4回「編集教室」に参加して

【講義内容】◎企画力「売れる企画の作り方」

講師:金井 弓子(かない ゆみこ)氏
ダイヤモンド社/編集者
【講師略歴】2012年高橋書店入社。1年間の営業職を経て、書籍編集職に、『おもしろい!進化のふしぎ ざんねんないきもの事典』など、児童書から女性実用まで幅広い企画を担当。2016年ダイヤモンド社入社。『せつない動物図鑑』(30万部)、『わけあって絶滅しました』(50万部)『続わけあって絶滅しました』(16万部)、『東大教授がおしえる やばい日本史』(29万部)、『東大教授がおしえる やばい世界史』(7万部)などを担当。

講演内容はAJECのアーカイブにてご確認ください。

「“いい企画”、“おもしろい企画”というのは、かなりいい加減な決め方だと思う。“売れる企画”としたほうが、数字が証明してくれるのでわかりやすい」ということで、今回の講演のタイトルを、「売れる企画の作り方」としたという金井弓子さん。

まだ、30歳と若く、きめこまやかなスライドを使ってわかりやすく講演された。

詳しくは、AJECの講演録を参照してもらうことにして、ここでは、かんたんな講演内容の概略と感想を述べる。  

<概略>

@ 不安に素直になると、「売れる」確率が上がる
A データを眺め続けると、なんとなく時代の空気感がわかる
B 売れる本を真似してもパッとしない理由
C 読者設定は超大切
D 企画段階で署名を決めると、軸が決まる
E 企画書は具体的にする
F 「経験」の少なさは「蓄積」で乗り越える
G 発想はゼロから生まれない
H 企画が通らない! どうすればいい?

<感想>

編集経験が5年以内の人に、「売れる」企画を作る方法を自分の経験を踏まえて話すというのが、金井さんの講演のねらいだ。

全体として、概要で並べた項目について、丁寧に説明していくという形で講演はすすめられた。

最初の@で、「思いついた企画を“めちゃめちゃ心配性な自分”で検証してみる」ということを提案された。

ここで、問題が3つある。

「売れる企画」という場合、そもそも売れそうな企画をどう思いつくかということがある。その上で、その企画をどのようにブラシアップして行くかということも問題だ。後者には、なぜ売れるかという理由や、売り方の工夫なども含まれる。また、最後に企画書として社内で通るようにしておくことも大切だ。

最初の企画の内容そのものをどうしたら見つけることができるかということ以外は、ある意味では技術的な問題でもある。

箕輪厚介流にいえば、最初のアイデアというか本のイメージを決め、それをつくりたいと強く思えば、後は、よく考えれば、自ずとわかってくるということになる。

このような企画を思いついてからの作業としては、金井さんの提案はとても参考になる。

しかし、最初のアイデアをどう思いつくのかという点については、いろいろとむずかしい問題がありそうだ。というより、そこに編集者の原点のようなものがありそうだからだ。


ここでは、FとGをめぐって、私なりの解釈を述べておく。

「経験」の少なさを「蓄積」で乗り越えるとは、どういうことか。

金井さんの中には、正の蓄積と負の蓄積があったそうだ。正の場合は、詳しいジャンルがあることであり、負の場合は、いろいろなコンプレックスだという。

具体的には、動物が好きでいろいろな動物のリストを持っていて、その動物にスゴイ動物から順にランクづけをしていたそうだ。

そして、あるとき、スゴイ動物はみんなが取り上げるけれども、ランクの低い動物は避けられているのではないか、その動物に光りを当てたらどうなるかということで生まれたのが、『ざんねんないきもの事典』(高橋書店/120万部)である。

この種の本の最初の本を金井さんは入社5年目でつくってしまったことになる。

その後、ダイヤモンド社に移ってから、参考にしていた動物に関するWebサイトが書籍化されたのを見て、「かわゆくて超ゆるい動物」の本が意外と少ないのに気がつき、『切ない動物図鑑』(ダイヤモンド社/30万部)をつくったそうだ。

金井さんは形容詞にこだわりがあって、「せつない」という言葉を使ったそうだ。

「発想はゼロから生まれない」というのは、以上のようなことでもあるが、さらに企画を発展させていくためには、テーマではなく、「読者を移植」することが大事だという。その結果できたのが、『わけあって絶滅しました』や『続わけあって絶滅しました』(ダイヤモンド社)であるとのこと。

最後に、「タメにならない企画は、圧倒的な何かを作る」ということだ。

もちろん、金井さんのつくった児童書がタメにならない企画であったわけではないが、実用書や参考書のようにすぐに何かの役に立つわけではなく、広い意味の教養書のようなものだと思われる。

そんな中から生まれたのが、『やばい日本史』(ダイヤモンド社)だそうだ。ここだけ、レジュメの文を以下に引用する。

(レジュメスライド「『やばい日本史』の場合」より)  

以上のことからもわかるように、金井さんの企画は、金井さんの個性とよくマッチしているような気がする。

金井さんは、自分の強みや弱みをよく理解し、それを企画の立案にうまく生かしていると思った。

もちろん、金井さんは、企画を充実させ、確実に売れるものにしていくために、徹底的なデータの確認や、読者層の調査(書店だけでなく、子供の実態を知るために学校現場にも潜入したそうだ)をしている。

ここから語られている読者についての考察も面白かった。

金井さんは「仮想読者のキャラ造形に凝る」と言っているが、「ペルソナ」を想定して、そのための企画作りをしているわけではなさそうだ。自分の企画があり、それを読者にどう提供すると売れるものになるかを検証しているのだと思われる。

金井さんは「雑学への愛」という表現を使っているが、編集者の原点とも言うべき「好奇心」がとてもありそうだ。

「雑学」というのは、すぐに役立つわけではない知識だが、それはある種の教養であり、心を温かくさせてくれるものだと思われる。

どんなものにも、この世に存在するものには、それなりの理由があって存在しているのかもしれない。そうしたものへの共感が金井さんの原点かもしれないと思った。


金井さんは、前の高橋書店のときも児童書担当だったが、ダンヤモンド社に移っても児童書が担当である。

売れる児童書とは、子供だけでなく大人にも面白いと思ってもらえる本だという。

金井さんのつくった本は、確かに、大人が読んでも面白い。

だからこそ、たとえ児童書であろうとも、編集者も面白いと思ってつくることができる。

ダイヤモンド社の本は、ある意味では、現代に必要とされる教養を養うための本が売れている。ビジネス書も児童書も、すぐに役立つ本というより、教養を深め、今を理解することに役立つ本が売れているような気がする。現代に必要とされる教養であるが故に、読者が広がって行くのだと思う。

ダイヤモンド社については、昨年、「営業と編集が連係していくために必要なこと〜今後ますます重要度が増す、作り手としての営業〜」というテーマで、取締役・営業局長兼大阪支社長の井上直さんに講演していただいた。

金井さんも、データに基づき、書店や読者のもとにも足を運び、入念な分析をしている。ダイヤモンド社というのは編集と営業の連携がうまく取れている会社だと思った。

今年度のAJEC編集教室の講師は、みな個性的な編集者であり、自分の個性を生かし、ある場合には自分の弱点まで売りにして、自分もアピールしながら本づくりをしているという点では共通していると思う。

かつてのベストセラーをつくった大編集者たちとは違って、自分の好奇心を大事にして本づくりをしていると思った。

<質疑応答>

最後に、金井さんの話を理解するのに参考になる質疑応答があったので、次に記す。  

@ 講演を聞いた売れる理由がよく分かりました。ところで、差し支えなければ、女子大に入学式に曇り空を眺めていて、その大学を3日で辞めてしまったのはなぜですか。
→谷崎が好きで、本当は早稲田に行きたかったのですが、そちらは落ちて、女子大に入った。
1年間かけて源氏を読むというようなシラバスばかりで、勉強嫌いな私ではついていけないと思いやめた。
次年度も、早稲田は落ち、けっきょく法政大学の法学部に入ったが、クラブ活動ばかりしていた。
A 企画を決めるとき、ライターやイラストレーターをどの段階で決めていますか。
→企画を立てた段階で、案を決める。
イラストレーターの資料はたくさんあって、この人に決めたいと思った人にはすぐ頼む。
ライターは少ないが、日頃からよく相談して、アイデアを出してもらっている。
B 売れなかったときの反省の仕方がどうしていますか。
→売れるかどうかは実際のところよく分からない。
発売前には確信が持てない。
売れなかった場合は、直後ではなく、3か月後ぐらいによく調べて考える。
感情的にならないようにして、反省と仮説を立て、次の本に活かすようにしている。
C ダイヤモンド社ではビジネス書も売れているが、ビジネス書と金井さんの本とのちがいはどんなところですか。
→ビジネスの分野は時代の流れが大事で、特に著者が大事だと思う。
児童書は見せ方が大事。
読者の設定は共通だが、著者の良さをどう引き出すのか、児童書の腕の見せ所だと思う。
(文責:東京オフィス 塚本鈴夫)