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エディットお役立ちレポート

2019-12-03

AI(人工知能)を利用した小説執筆プロジェクトは成功するか?

AIを利用した小説執筆の試みは、すでに公立はこだて未来大学副理事長・松原仁教授のプロジェクトがある。最終目標は、星新一賞をとるということだが、まだ実現できていない。

この公立はこだて未来大学の試みは、純粋に、AIでそれが可能かというAI研究の一環として挑戦されたものだが、Books&Company (社長・野村衛)の試みは少し変わっている。

新文化(2019年7月4日号)に投稿された野村衛さんの論文のタイトルは、「『AI小説』でコンテンツ変革」というものだった。

野村さんは、元集英社の編集者で、退職後、2017年9月に電子出版の会社を立ち上げた。その時に野村さんの考えたことは、「最新の技術を使って、出版コンテンツという伝統料理に新しい味を加えること」と「出版業界全体の利益となるようなソリューションを提供したい」といことである。

そして、最初に構想されたのが、「AIによる校正・校閲のサービス化、プラットフォーム化」である。AIには豊富なデータが必要ということで、良質なデータを求めて、いろいろな辞書出版社に相談したそうだが、結局、AIに必要なデータが集まらないことで、校正・校閲のサービス化は頓挫。

(これと同じような試みに、メディアドゥの「Picassol 」というサービスがある。こちらは、講談社との共同開発で、いちおう商品化されている。ただ、普及しているかと言われるとまだまだだが。)

「AIの開発には、データが命である」ということを踏まえて、次に考えたのが、このAIによる小説執筆というプロジェクトだったそうだ。

このプロジェクトも現段階では、かなり厳しい状況になっているようだ。この間の経緯は、Books&CompanyのHPのコラムで解説されている。かなり、詳しくプロジェクトの進捗状況が語られていて、とても興味深い。

しかし、その困難な取組のなかで、「国内で同様の取り組みをしている個人の研究者と連絡を取り合うことを開始したこと」と「AIによる文章生成サービスという現実的なソリューションにつなげられたこと」という成果があったという。  

前者の成果は、Kindleなどで販売されている、葦沢かもめ著『水面の遺伝子』(320円)である。これは、著者の芦沢かもめが、自分で開発したAIで、「ツイッター用小説執筆AI」にプロットを書かせ、それを基に小説にしたもの。

早速、Kindle版を購入して、読んでみた。SFではあるが、確かにまだ完成度が低く、小説として成功しているとは言えないようだが、こうした仲間が増えていくと、ある程度の結果が出せるかもしれない。これからの進展に注目したい。

ただ、私の個人的見解としては、まだ、自然言語処理が、単なる統計処理でしか行われていない段階では、小説などの文章の執筆は無理だと思う。言葉の意味をコンピュータがどう認識できるかという問題が解決されていない。人間は、前の文の意味を踏まえて、それに呼応しながら、次の文を生成している。また、言葉の「意味」をどう実装するかは、未知の領域でもある。

野村さんは、WordtoVecというライブラリーを使って、たくさんの言葉をベクトル化して、意味を対応させている(野村さんのHPのコラム参照)。これは、まだ、統計的処理の段階である。

しかし、幼児が母語を習得するのは、そんなにビッグデータを必要としていない。おそらく、チョムスキーの言うところの言語の文法を生成する機能が、人間にはあると思われる。そういう機能をコンピュータに実装できるのは、まだまだ未来のことで、脳科学の進歩を待たざるを得ない(この点については、酒井邦嘉著『チョムスキーと言語脳科学』インターナル新書/2019.4.5)参照)。

現段階でAIによる小説の執筆に挑戦するとしたら、@プロットまたは粗筋づくりとAプロットを文章化することに分けて、それぞれに挑戦してみるくらいだと思われる。それぞれのデータをうまく集めて、それぞれの最適解を求めることになるが、公立はこだて未来大学の場合は、@を人間がやって、Aを星新一の文章をデータベース化して、文章を作らせている。芦沢かもめの場合は、@をAIにやらせて、Aを自分がやっているわけだ。それでも、まだまだ課題が多そうだ。

後者の成果である「AIによる文章生成サービス」については、いよいよ、8月1日に高性能の音声認識AIを活用した、音声データをテキストデータに変換AI文章生成サービス「easy writer」の使用が可能になるという。こちらは、野村衛さんの編集者時代の経験をAIソフトにビルドさせているという。今後の展開に期待したい。

ところで、野村衛さんの投稿でいちばん面白いなと思ったのは、次のような考え方である。

「コンテンツのデジタル化とは、すべての作品が情報化され、分析可能な状態になることである。自社の作品をいつ、どこで、誰が買ったか。どこまで読んだか、何回読んだか、どこにブックマークしたか、文中の何の語句を検索したか、どんな感想を投稿したか、誰とシェアしたか。閲読履歴や購買データを通じてその情報を取得し、次のコンテンツ制作や読者サービスに生かすことが本来のデジタル化のはずである。」

(新文化記事より)

確かに、Kindle本の場合、読んでマーカーで印を付けると、読者同士で共有できる。もちろん、今のところ、そこにみんなが印を付けたよということしか、私たちには分からないが、Amazonの方では、AIで分析しているはずである。それに基づいて、新しい本の執筆を依頼するというような試みは始まっていると思われる。

著作権法が改正され、人間でなく機会であれば、つまりAIであれば、データとして、全文を使用しても、著作権処理が必要なくなった。問題は、英語圏のように、日本語の著作物がデジタル化されて、利用できるようになっているかである。国利値国会図書館の試みなどがあるが、まだまだ、これからだと思われる。

映画やゲームなどでは、そうしたデータを基に、新しい映画を作ったり、オンラインゲームを改革したりしている。そのうち、出版界にもそうした波がやってくるはずであり、そのことを出版界はどれだけ理解し、そのための施策にどれだけ取り組んでいるのかというのが、野村さんの危惧である。そして、そのための伝道師のような役割をBooks&Companyが行っているという自負があるようだ。

なお、Books&Companyでは、無料セミナーを開催している。充実した内容のセミナーなので、有料にしてもよさそうだが、これも同志を集めるための投資として考えられているのかもしれない。ちなみに、Books&Companyの過去2回のセミナーは、第1回が、植村八潮氏による「専門書出版社が知っておくべき電子図書館の現在と電子書籍貸出サービス」、第2回が佐渡島庸平氏の「コルク代表/佐渡島庸平氏から学ぶ“これからの出版のこと」という内容で、2時間半のセミナーだった。

Books&Companyがこれからどうなって行くのかは、よく分からないけれど、野村さんの心意気は、買っていいように思われる。

(文責:東京オフィス 塚本鈴夫)