【講師略歴】
1980年生まれ。2001年に株式会社PHP研究所入社。
主な担当書籍に、『おしっこちょっぴりもれたろう』(48万部)などの「ヨシタケ絵本」シリーズ(累計182万部)、「しろくま」シリーズ(累計28万部)、「ぼくの」シリーズ(累計31万部)、「いちにち」シリーズ(累計50万部)、「わがままおやすみ」シリーズ(累計30万部)などがある。絵本、童話、読み物などを担当。(AJECの講師プロフィールより)
相変わらず出版不況が叫ばれていますが、コロナ禍の中、大手の出版社が過去最高益を出したりしています。そうした中で、コミックや絵本・児童書などは売り上げを伸ばし、『鬼滅の刃』などは、家族でアニメを見るなど、多様なメディアに登場していました。
今回の講師の阿部聡子さんは、20年以上にわたり児童書・絵本の編集に携わり、特に絵本は数々のロングセラーの絵本シリーズを手がけてきました。今回の講座では、阿部さんが経験した絵本づくりのエッセンスをわかりやすく語っていただきました。
ヨシタケ絵本ができるまでのお話は、とても興味深いお話でしたが、時間もかかり、大変だったと思います。多分、ヨシタケ絵本は、阿部さんの絵本作りの原点になっていると思いました。確かに、PHP研究所は、児童書の老舗というわけではありません。私も、経験がありますが、老舗の児童書の数々、さらにシリーズとなり古典になりながらも売れ続ける絵本(例えば『ぐりとぐら』など)を見ると、圧倒されます。その中で、ロングセラーのシリーズを出せたことは、阿部さんにとっても、PHP研究所にとっても、偉業だったと思います。
今回久しぶりに、近場の書店を回って、絵本売り場を覗いてみました。児童書はそれなりの売り場面積を持っていますが、いちばん大きいのは、絵本のコーナーでした(埼玉県飯能市の駅ビルの4階の「くまざわ書店」、丸広百貨店飯能支店の6階の「丸善」に行って来ました)。そして、絵本の売り場の特徴は、新刊がメインであるわけではないということです。いわばロングセラーの絵本がたくさん並んでいます。ヨシタケシンスケ著『おしっこちょっぴりちびたろう』(2018/06/19初刷、2022/09/15第23刷)があれば、中川利江子文・大村百合子絵『ぐりとぐら』(福音館書店・1967/01/20初刷、2022/03/01第239刷)も並んでいます。もちろん、ロングセラーの絵本がたくさん平台に置かれていたりします。ある意味では、自然淘汰されて、結果的には、その店でよく売れている本が平台に置かれているわけです。新刊だからというわけではないようです。
私は、別の会社で児童書の編集部を立ち上げて部長をしていたことがあります。30年近く昔のことです。老舗の児童書出版社の出版部に圧倒されながら、へっぴり腰でまず創作童話から始めたのですが、そのとき持ち込みで絵本の企画がありました。まだ、若い編集者が担当していました。ベテランの課長(元老舗で児童書の編集長経験者)は「あれは絶対に売れませんよ」と言っていました。そして、私も正直こんなに売れるようになるとは思ってはいませんでした。
会社のトップも含めた企画会議では、評価に賛否両論がありました。それはかなりかけ離れた正反対の評価でした。しかし、逆にそのことがひょっとするという気にさせてくれました。
その本が、文溪堂のロングセラーになった『バムとケロのにちようび』(1994/09初刷、2022/04第78刷)という絵本でした。多分、現在ではシリーズで5冊出ていますので、累計で350万部を越えていると思います。この本も1冊目は目立って売れていたわけではありません。シリーズ化されて、2冊目が出てから売れはじめました(日曜日から始まって、土曜日までの本なので、多分、後2冊は出る予定です)
昨年のAJEC編集講座で、SBクリエイティブの鯨岡純一氏が、学習参考書はロングセラーがつくりやすいと話していましたが、児童書も、とりわけ絵本もその可能性があります。それは、シリーズ化しやすいことや、内容が普遍的であることも関係していると思います。
ここで、今はやりのAIに、「絵本はなぜロングセラーになりやすいのですか」と尋ねてみました。
AIは、絵本が何であるかを知っているようです。以下がその答えです。
絵本は大人から子どもまで幅広い読み手層がいるため、需要が高くなりやすいという特徴があります。また、子どもが大きくなるにつれて、その子どもにとっての思い出や、親子の時間を過ごした思い出として絵本が残りやすいため、長く読み継がれることが多いです。
絵本には魅力的なイラストが描かれていることが多く、それが子どもたちにとって大きな魅力となります。また、イラストが美しいものや、個性的なものである場合、大人の読者にも人気があり、需要が高まることがあります。
一見、子ども向けの絵本でも、内容に深みがあるものがあります。そのような絵本は、大人にも読まれることが多く、需要が長く続くことがあります。
以上のような理由から、絵本はロングセラーになりやすいと言われています。
絵本がロングセラーになりやすいのは、いくつかの理由があります。
絵本がロングセラーになりやすいのは、いくつかの理由があります。
以上のような理由から、絵本はロングセラーになりやすいと言えます。ただし、その絵本が子供たちに愛されるためには、良いストーリーやキャラクター、素晴らしいイラストなどが必要です。
(以上、表記はAIの出力のままです)
いずれも、その通りだと思います。それは、しかし、ロングセラー本ができやすいということでしかありません。つまり、ロングセラーの絵本になるには、ロングセラーになった理由があるということだと思います。ChatGPTも「その絵本が子供たちに愛されるためには、良いストーリーやキャラクター、素晴らしいイラストなどが必要です」と指摘しています。
ロングセラーになった本には、阿部さんがそうであったように、編集者と絵本作家とのよき出会いがあり、本ができるまでにはそれぞれの個性的なドラマがあったと思われます。そして、絵本作家と編集者たちは、いまではこうした絵本づくりのノウハウを100も承知で、新しい絵本作りに挑戦しているのだと思います。もっとも、ロングセラーがたくさんあるということは、逆に新規参入はなかなか難しいということでもありますが……。
阿部さんが言っていたように、ロングセラーの絵本ができるためには、まず著者を見つけることだと思います。勿論、売れている著者に自分のところでもシリーズをつくってもらうことができれば、それがいちばん簡単です。でも、それは老舗の出版社でないとなかなか難しいです。ヨシタケシンスケさんが、PHP研究所とブロンズ新社でそれぞれシリーズ物を出し始めたのは、ヨシタケシンスケさんの登場の仕方に起因しています。勿論、いまではいろいろな出版社から絵本を出して、そして売れているようです。
新人の作家を見つけ、そして、実際に絵本を作ってもらうまでには、地道な付き合いが必要です。運が良ければ、最初の絵本はもうできあがっているかもしれません。しかし、大抵は編集者との付き合いの中で、作りあげられていくのが普通です。そういう意味では教材作りの中で、子ども向けのイラストを描いているイラストレイターの中に、売れる絵本を作れる人がいるかもしれません。文溪堂の『バムとケロのにちようび』は、編集プロダクションからの持ち込みでした。イラストレイターの持ち込みは厳しいと阿部さんがおっしゃっていましたが、編集プロダクションからの持ち込みはあり得ると思います。
今回の阿部さんの講演は、直接私たちの仕事にすぐ役に立つというわけではありませんが、絵本ができるまでの過程は、編集活動そのものです。そして、「絵本づくりの基礎」は、もちろん教材づくりにも役立つはずです。なにより、編集者としては、いろいろな絵本の現状を知っておいて損はないと思いますし、子どもたちや親たちのあり方を知ることは大切なことだと思います。
絵本の定義はいろいろあると思いますが、絵本売り場にある本は、芸術的なものから学習漫画的なものまで、とても多様です。私たちは、学習教材や実用書、資格本などの編集に携わっていますが、多分絵本的なものは、こうした編集活動の中にもたくさんあるような気がします。