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エディットお役立ちレポート

2021-2-25

オンライン講座 「本の世界観を作る具体的技術(演出力)」

講師:谷 綾子(たに あやこ)氏  文響社 編集者

【講師略歴】
株式会社 文響社 勤務 滋賀県出身。2005年高橋書店入社。1年の書店営業を経て編集部へ。『こころのふしぎ なぜ?どうして?』(57万部)を含む「楽しく学べるシリーズ」の立ち上げ、『料理のきほん練習帳』(40万部)など、主に実用書・児童書を担当。2014年より文響社にて『失敗図鑑』(20万部)、『一日がしあわせになる朝ごはん』、『休日が楽しみになる昼ごはん』(シリーズ15万部)、『うんこ漢字ドリル』などを担当。

 谷さんの講演は、昨年に予定されていたものですが、コロナの流行により、延期されていました。その間、谷さんは出産があり、6月ごろから仕事に復帰されたそうです。AJECの編集教室のオンライン講座としては、2度目で、今回から2000円の参加費を納入して受講するようになりました。今回に講演の中心は、どのように企画を考え、それを企画書としてまとめることと、そして企画が通ったらどのように本をつくるのか(演出)について、谷さんの実用書づくりの経験を踏まえた提案でした。以下、谷さんの講義の内容を簡単に紹介します。(詳しくは、AJECのHPで紹介されるものと思われます)

講義内容

感想

 講演を聞き終わって、いちばんショックだったのは、最後のおすすめを見て、私が知っていたのは、おすすめ本にある森下典子著『日日是好日』だけだったことでした。それ以外は、読んだことも見たこともなかったものばかりです。これは、年齢の差だけではなさそうです。

 多分、このおすすめを見たとき、多くの人は、私のようにそんなものがあるんだと驚いたのではないでしょうか。つまり、普通の実用書の編集者だとおそらくほとんど知らないものなのではないかと思われます。(違っていたら、ごめんなさい)

 これは、知識の欠如ということではなく、それだけジャンルが増え、娯楽が多様化しているということのせいだと思います。そして、それぞれの個人が、それぞれ多様な文化に接しているのだからだと思います。勿論、その中でも、谷さんは意識的にそうした多様な文化に触れているように思われます。おすすめを見ていて、そうした谷さんの好奇心の大きさに驚きました。

 著者にいろいろ注文をつけるとき、自分は読者の代表として、対等の立場で著者に接していますと言っていましたが、その自信はこうした好奇心を持って世の中を眺めていることからきているのだと思います。それが、企画の種を見つけることへの自信だと思います。「素人の自分だからこそ、こんな本が欲しいという企画が提案できる」という自信はすごいと思いました。勿論、データで検証することもしていますが。

 今回の講演では、企画書を作るまでと、その企画書が通り、本づくりをすることが、谷さんの自分自身の経験を取り上げながら、具体的に説明されていて、一つの本が出来上がって行く過程が目に見えるようでした。勿論、実用書をつくる過程は、これだけではないと思われますが、谷さんがつくった本の個性(世界観)はこうしてできているのだということがよく分かりました。

 書店や読者に向けてのプロモーションはあるのでしょうが、谷さんのつくった本は、表紙やタイトルなどをはじめ、一つの強いメッセージ性(世界観)を持った本(物)として店頭で自己主張しているようで、それが読者を引きつけたのだと思います。料理の本にこんな切り口があったのかということを知って驚きました。そして、「朝ごはん」や「昼ごはん」、「晩ごはん」に挑戦したくなります。できあがった本に、確かに「世界観」が宿っているのがよく分かりました。こういう本づくりもあるんだなと改めて驚きました。

 確かに、本づくりそのものの物理的過程は、それほど特殊なものではなく、一般的で普遍的な過程であり、方法だと思われますが、そこに込められた「世界観」によって、こんなに面白い本ができるのかと思いました。

 文響社のノルマとしては、年6冊で、大体2冊を同じ並行的に進めながらあと4冊を練っていくという本づくりのようです。著者やデザイナー、ライター、編集プロダクションとは基本的に徹底的に話合って問題を解決していっているようで、基本は正直で誠実な人なのだと納得しました。

 エディットにも、版元からタイトルのようなものと、大まかの企画の提案を渡されただけで、谷さんのような世界観を持った本を作る編集者はいると思います。勿論、版元の人ほど自由にできるわけではないので、とても窮屈な作業になりますが、日々、皆さん「演出」に力をこめている筈です。そして、そういう人たちは、日々、谷さんにように感受性を研ぎ澄まして、好奇心を持って、世の中を見ていると思います。読者が、作られた本に共感して、自分を変えていくような本をつくること(実用書の王道)は、編集プロダクションでも心しておくことだと思いました。