講師:藤本 隆(ふじもと たかし)氏 プランディット 編集事業部 編集長
【講師略歴】
ベネッセグループの編集専門会社にて編集業務に長年携わる。学習教材をはじめ情報誌、フリーペーパー、教育系タブロイド、資格系教材、広告チラシ、フライヤーなど、広範な印刷媒体の企画・制作経験を持ち、原稿、記事の執筆、イラストレーション、DTPデザインもこなす。ベネッセグループ各社向けの育成研修講師を務める。著書に『印刷発注の基本がわかる本』(日本能率協会マネジメントセンター)。
今回は、編集講座のBコースで、藤本さんの2回目の講座になります。前回は、「編集制作工程と編集者の役割」という講座で、印刷と組版一般の過程と対応づけながら、編集者の仕事が紹介されて、編集者の大事な役割が説明されていました。今回は、「校正記号と校正補助ツール」という講座ですが、出版活動のなかで、校正という過程の位置づけと役割が分かりやすく解説されていました。詳しくは、藤本さんのスライドやAJECでの活動報告で確認してもらうことにして、ここでは、藤本さんの講座の流れをライド順に紹介しておきます。
これまで、いろいろな「校正」についての講義を聴きました。それぞれ特色のある講義でした。長年、校正に携わると、それなりに哲学ができるようだと思いました。
藤本さんは、出版活動全体を俯瞰してから、今回は校正という段階に焦点を絞って話をされました。原稿が入稿され、組版され、ゲラが出校されたところから、製版され、色校が出て、校了になるところまでの過程を取り上げて、そこで「品質保証」するのが校正の仕事だと言われました。原稿検討などは、「品質向上」にあたるものですが、それ(品質向上)を校正段階でやるのは間違いだというのがよくわかりました。しかし、編集プロダクションの実務としては、初校が上がってから、著者校正や編集部チェックなどが入り、プロダクションの校正作業としては「品質向上」も同時に行っているというのが現状のようです。それゆえ、原稿検討の段階で、版元とある程度の合意に達しておかないと、純粋な「品質保証」としての校正は難しいと思われます。
「校正」は、印刷工程の発展によって、かなり変わってきています。デジタルになってからの組版の校正は、同時に色校も行われるようになっています。つまり、組版が終わると、ゲラがPDFになり、色校正も同時になされていくというのが現在の主流になっています。プロダクションの編集作業は、何らかのデジタルデータ(Word原稿が多い)をもらい、その原稿を検討し、デジタルデータ(Wordが多い)で組版入稿して、InDesignで組版してもらい(または組版し)、その後はPDFデータで校正を進め、校了にし、InDesignの組版のデータを納品するというのが一般的な過程になっています。もちろん、受注の仕方によっては、もっと多様な形態がありますが……。藤本さんがいうように、校正を純粋に品質保証の過程となるようにするためには、組版に入稿する段階で品質向上を完全にしておかないと不可能であり、この段階で、版元のチェックや校閲を入れてもらうのが大事だと思います。デジタル原稿をもらって、初校になってからのPDFデータで版元チェックが入ると、往々にして、品質向上の段階(本当に品質向上になるか微妙ではありますが)に逆戻りする場合が多いです。この点では、常に版元の担当者とのコミュニケーションが大事だと思います。こうしたことを考えることができるのは、編集作業における校正の役割が明確になっているからです。藤本さんが述べているように、品質向上の段階(原稿検討・整理など)と品質保証(校正・校閲など)の段階の区別ができるようになることによって、それぞれの役割が明確になってきます。そういう意味では、ときには校正の原点に戻って考えてみて、私たちの編集作業を振り返ってみることも必要だと思いました。
ところで、デジタル原稿の場合、本当は、テキストデータとその他のもの(レイアウト、図版など)を区別して処理できると、もっと多様な校正も可能になってくると思われます。今、はやりのAIを使った校正は、いわばこのテキストデータに対しての校正が主であり、現段階ではとてもレイアウトなどの校正はできません。Wordを使ったデータ処理でも、テキストデータを上手に扱うためには、スペースキーを使ったレイアウトをするのではなく、レイアウト(段落下げや表組みなど)は常に書式設定で行うことが原則になります。(四禮静子著『スペースキーで見た目を整えるのはやめなさい』(技術評論社/2020.6.19))ただ、教材や実用書も、図版やレイアウトが複雑になってくると、テキストとその他(構造的な書式)を区別して処理するのが難しくなります。InDesignの各種の校正ツールは、いわばテキストデータに対する校正機能を担っている場合が多いと思われます。藤本さんが提案してくれた校正補助ツールの中のWordやJustRightなどはテキストデータの校正処理だと言えます。Brushupは、PDFデータを校正データとしていて、共同作業としての校正ツールとしてはかなり有効かもしれませんが、これは使う人が慣れないと,なかなか難しいと思いました。正規表現について言えば、プログラミングで文字データを扱う場合は、必須な技術であり、簡易なスクリプト言語と一緒に学ぶことをお薦めします。そろそろ、編集者にもプログラミングの知識・技能が必要になってきていると思いました。
藤本さんの講演は、校正という点に限って言えば、とても妥当で、興味深かったです。編集プロダクションとしても、よく心に留めておくべきことだと思いました。