講師:藤本 隆(ふじもと たかし)氏
これで、藤本隆さんのオンライン講座は、4回目です。今回は、前回触れられなかったフォントとDTP組版についての講座でした。漢字、フォントに続くDTP組版なので、漢字やフォントをInDesignでどのように活用できるかもよく分かるように解説されていました。
以下、藤本さんの講義の内容を簡単に紹介します。
【前回講義の漢字についてのまとめ】
【フォント(Font)】
【DTP(Desktop Publishing)】
漢字の符号化方式とフォントとは密接に関係していて、実際の画面出力や印刷出力は、フォントを使ってなされています。前回の講座で、漢字をコンピュータで処理するために、どのような符号化方式を採用してきたのかをJISの歴史として学びました。特に、常用漢字外の字体を常用漢字の字体に合わせるのか(拡張新字体)、それとも、もともとの旧字体のままでいくのかが、問題でした。
一応、現在の基本は、常用漢字外の字体は旧字体でいくというJIS2004の規格になっているようですが、モリサワのフォントでは、それが別々のフォント集合になっています。私が昔、20年ほど前にInDesignを使っていたころは、拡張新字体になっていたようで、InDesignの異体字検索で、旧字体のものを探した記憶があります。現在は、フォントのファミリーの最後にNがつくかつかないかで、旧字体か、拡張新字体のどちらが基本になっているかが区別されていることをはじめて知りました。
今回の講演が、漢字、フォントに続いてDTP組版だったので、JIS規格の問題(旧字体、拡張新字体)がDTPソフト(InDesign)ではどのように処理されているか、具体的な例を挙げられていてとてもよく分かりました。符号化文字集合としてほぼ必要な漢字を網羅した、JIS2004と、それに伴うフォントの作成の歴史は、知っておくべきことだと思います。
ところで、私が、DTP組版で衝撃を受けたのは、教材などの教師用アカ版を作るとき、レイヤーを分けて児童用と教師用を作り、校正の段階で重ね合わせてPDFを作れば、簡単にアカ刷りの校正ができることでした。このレイヤーという考え方は、PhotoshopやIllustratorなどにも使われていた方法ですが、とても教材の編集には便利だと思ったものです。
そのころは、まだ、写植で組版していて、児童用と一部重なる教師用アカ刷りをどのように組版するのかが、頭痛の種でした。それが、DTP組版でいとも簡単にクリアされたのでした。また、文字や画像などの修正も、簡単にできるようになりました。その分、後でも修正が可能だと安心してしまったという悪弊も生じましたが、……。
また、PageMakerやQuarkXPress(Illustratorも)などで、DTP組版は日本語の縦書きの場合、微妙にうまくいかないことがありましたが、InDesignの日本語バージョンはそれを見事にクリアしていました。そのときに、正方形の仮想ボディの中に文字をデザインするという発想を知りました。この正方形の仮想ボディで組版することによって、日本語の縦組みがきれいにできるようになりました。また、字形にあわせて詰めるようにすることもできるようになっています。
日本語のフォントとしては、写研、モリサワなどがありましたが、DTPが始まる前は写研のフォントが圧倒的なシェアを占めていましたが、写研はあくまで写植機メーカーとして生き残ろうとしました。他方、モリサワは、フォントメーカーとして生き残りました。DTP組版の時代になって、Adobeと連携しながら、新しいフォントをつぎつぎと開発して、現在では、フォントメーカーといえば、モリサワと言われるようになっています。そして、DTP組版ソフトは、現在、Adobeの独擅場となり、ほとんどがInDesignで行われています。最初は、Macでの実用化でしたが、いまでは、Windowsでも同じように扱え、データもほとんど互換性があります。
これからは、InDesignを使いながら編集作業をするのか、それともInDesignによる組版は、デザイナーや組版会社にまかせて、組版しやすい入工原稿をどうつくるかが編集の仕事だと考えるかに分かれてきます。
編集プロダクションによっては、編集者が全員InDesignを使いこなしているところもあります。また、作家によっては、InDesignを使いこなし、多様な漢字やルビを使い、しかも見開きを超えた段落にならないようにという組版ルールを作って、原稿を作成している京極夏彦のよう人も現れました。
今後は、簡単な物は、InDesignで内製し、複雑な物は、組版会社(または、デザイナー)に依頼するということになっていくのかもしれません。エディットもそうしていますが、編集者全員がWordのように使えるかと言えば、難しい状態です。
将来は、編集者全員がInDesignを使えるようになり、その上で入工原稿をどう作れば完全原稿になるのかと考えられるようになるのが理想だと思います。ただ、AdobeのCreative Cloudのプランは、月額月6,248円(税込)の費用がかかります。InDesign単体のプランだと月額2,728円(税込)になります。編集者の道具として、これが安いと言えるのかどうかは問題がありそうですが、……。
いずれにしても、InDesignがマイクロソフトのOfficeのように文房具の一種として使えるようになれば、もっと普及し、みんなが使うことになるかと思います。そうすると、藤本さんの言う、「道具から仕組みへ」ということも考えられるようになるかと思います。そのためにも、編集者としては、DTPについてひと通りの知識を持ち、InDesignを道具として多少は使えるようになる必要がありそうだと思いました。