編集と印刷・のんびりコラム「第6回 文字ボックスと全角組版のお話」
こんにちは。エディット企画ソリューション部の藤本です。
デジタルシフトによる書籍販売減や生成AIの進化など、出版・編集・印刷の世界は今まさに新しい時代へのシフトチェンジ真っ只中ですが、このコラムではちょっと古い時代に戻って、レガシーな編集や印刷技術をのんびり振り返ってみたいと思います。温故知新、何か次代へのヒントがあるかも。いや、ないかも(笑)。
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印刷所のような大規模な工場でなければ印刷物が作れなかった活字の時代、専用の高価な機材がなければ文字を印字できなかった写真植字の時代と違って、DTPは印刷物制作の裾野を大きく広げました。
●DTPとは…
専用のアプリを使って、パソコン上で誌面データをキッチリ仕上げることをいいます。アメリカでは1980年代、日本ではおよそ10年遅れて1990年代に広まりました。「DTP」はDeskTopPublishingの略で、最初の本格的な組版アプリであるPageMakerを開発・発売した今はなきAldus社の広告キャッチフレーズ(これからはDesktopでPublishingできる時代だ)だったといわれます。
先日、印刷会社の営業担当の方がしみじみと言っていたのですが、「DTPは専用の設備や職人的な知識・技術がない人でも印刷物を作れるようにはしたけれど、一方で昔はなかったトラブルや質の低下も招きましたよね」の言葉どおり、DTPの普及により爆発的に増えた印刷物の中には、残念ながら「印刷物としてどうよ」と思わずにはいられない質の低いものが散見されます。
その1つが「組版」です。いきなりマニアックな話でスミマセン(汗)。日本語の文字は小学校1年生のときマス目のノートでひらがなを練習したように、1文字1マスの「全角組版」が基本です。もちろん現実の文章では、文字を補助する(『〔〈“:…などの「約物」と言われる記号や数字、欧文などが混在して1文字1マスの原則を崩します。さらに行頭や行末の禁則や分離禁止文字などの制約が組版を複雑にします。更に言えば「へ」と「く」ではデザイン上、文字の高さや横幅が違いますから、文字の並びを美しく見せるために、場合によっては横書きで「く」の前後だけを詰めたり、縦書きでは「へ」の前後だけを詰めたりするケースもあるのですが、それでも、基本は1マス1字。これが意味なく乱れてしまうと、本質的な読みやすさや、印刷用文字としての統一感、品質感を損ねてしまいます。
活字の時代は、印刷所に入所するとまず、手書き原稿の順に棚から活字を拾う「文選工」になったのだそうです。これを何年も続けて要領よく文字が拾えるようになると、親方に付いて「組版工」の修行を積む。活字として恥ずかしくない組版ができるようになるには、相当な熟練を要したといいます。逆に言えば、この時代には鍛え上げられ熟練した職人の手による高品質な印刷物だけが、世に出ることができたわけです。
さて、寄り道から本論へ。DTPソフトでは、基本的に組版はソフト任せです。もちろん細かにこだわった組版をすることも可能なのですが、そんな意識など微塵もない人にも印刷データが作れてしまうのがDTPです。多くの組版ソフトでは、文字を組む際は「文字ボックス」と呼ばれたり「文字フレーム」と呼ばれたりするという外枠を作ってから、そこに文字を入力したりコピペしたりファイルを指定して読み込んだりします。この文字ボックスを無造作に作ってしまうと、間抜けな組版の印刷物ができてしまいます。
今、いい加減な文字ボックスを作り、そこに文字を入れていきます。1行目を入力途中の下図の状態では、文字は左から順に日本語の基本、1マス1字の全角組版を守って並べられています。

ところが2行目にさしかかると…この場合、組版の規則として行末揃え(=ジャスティファイ)が自動でかかり、ギリギリでもう1文字が入らない1行目最後の隙間を埋めるべく、1行目の文字たちの間隔を空ける調整が入ります。その結果、1行目の全角組版が崩れて、妙にパラパラした文字の並びになってしまいます。入力途中の2行目と比べると、1行目の妙な隙間が気になりますよね。

このような事態を防ぐには、ボックスを作るときにその横幅を文字の大きさに合わせて全角組版になるよう計算しておく必要があります。たとえば20級×8文字のボックスならば、0.25×20×8=40mmというように(「級」は写植時代から続く印刷用文字の大きさの単位で、1級=0.25mmです)。あらかじめ計算したボックスであれば、以下のように、常にきれいな全角組版で文字が並ぶわけです。

でも、これを面倒くさがる人や、そもそも必要性を知らない関係者も悲しいかな増えています。何とも思わない人も多いのかもしれません。文字間がぼやや~んと開いた印刷物を見つけると、ちょっと悲しい気持ちになってしまいます。
昔の組版アプリケーション──PageMakerやQuark Xpressで日本語を美しく組版させるためには、こうした計算が必須でした。その後にデビューした組版ソフトでは、文字ボックスに文字の級数に対応したマス目を表示させて中途半端なサイズのボックスができないようにできるものもあります。InDesignなどは、外枠だけのボックスと、マス目のボックスの両方を使えるのですが、やはりこの機能の意味を知らない人も多く…。

DTPの普及は印刷物の数を爆発的に増やしましたが、一方でその質は玉石混淆になりました。まぁ、そんな世の中だからこそ、本当に必要な情報を読者にキチンと伝えようとする印刷物には、美しく組まれた高品質な組版が、いよいよ求められるわけです。「組版」うんぬんの知識はなくても、よい組版の印刷物といい加減な組版の印刷物は、比べれば感覚的な品質感の差としてわかります。
われわれ編集者は易きに流れないよう、見る目をしっかり養っておく必要があると思うのです。
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どんどん話が長くなりそうなので、今回はここまで。次回は組版ソフト・覇権争いの歴史もよさそうですが、いよいよ役立ち度が下がりそうな…。編集、印刷業界の方には「何をいまさら」な話題ですが、引き続きティーブレイクとしてお付き合いください♪
(企画ソリューション部 藤本)








