10月編集講座「ロングセラー本の作り方」(鯨岡純一氏)に参加して

◎オンライン講座「息の長いロングセラー本が、のちのちベストセラーになる」

講師:鯨岡純一(くじらおか・じゅんいち)氏
SBクリエイティブ株式会社 学芸書籍編集部・副編集長
【講師略歴】
1982年東京生まれ。国際基督教大学卒。編集制作会社を経て、2010年に総合出版社すばる舎・書籍編集部に入社し、自己啓発書やビジネス書などの企画・編集を行う。その後、KADOKAWAのビジネス書籍編集部で、おもに日本経済や投資をテーマにした単行本を手がける。
2016年にSBクリエイティブ学芸書籍編集部に入社。現在は、大人向けの学び直し本の企画・編集を中心に活躍。40万部突破『一度読んだら絶対に忘れない世界史の教科書』をはじめとした「一度読んだら絶対に忘れないシリーズ」はシリーズ累計100万部を超えている。

 今回の鯨岡純一さんが編集した『一度読んだら絶対に忘れない世界史の教科書』は、2018年に出版され、現在44万部を突破しています。
  歴史ジャンルでは年間売上が4年連続1位で、ほぼ毎月1万部の増刷になっているそうです。

 鯨岡純一さんは、現在のSBクリエイティブに入る前に、すばる舎やKADOKAWAで自己啓発書やビジネス書をつくってきましたが、目標とする10万部のベストセラーにはとても達しなかったとのこと。
 そして、もう自分には10万部以上のベストセラーは無理なのではないかと思っていたそうですが、SBクリエイティブに入社して、先輩にも恵まれて、学び直し本で見事にベストセラー本をつくる夢が果たせたと言っていました。

 社内では、初速の売上から、5~6万部くらいは売れるだろうと予測していたそうでしたが、増刷に増刷を繰り返し、ロングセラーとなっています。
 そうした『世界史の教科書』が、なぜロングセラーになったのか、また、どんな本づくりをすればベストセラーになる本になるのかなど、鯨岡さんがわかりやすくお話ししてくださいました。
 以下、簡単に講演の内容を紹介します。

<講義内容>

●ロングセラーを生み出す2つのポイント

① 口コミを増やすことで読者を獲得する。

  • 本の中に口コミを増やす工夫をする。
    →序章に「口コミの材料」を散りばめる。
  • スマホでSNSにアップできるような図版を挿入する。
    →「口コミの言葉」をつくる。
  • 人に言いやすい説明を編集者がつくる。
    →ビジュアル的にも『学校の教科書』との違いが分かるようにする。
    ※本を読まなくても読者が口コミを書けるくらいの意気込みでつくるとよいとのこと。
    <参考>Amazonの内容紹介
    https://www.amazon.co.jp/gp/product/B07FVK45BX/ref=ppx_yo_dt_b_d_asin_title_o01?ie=UTF8&psc=1/

② ロングセラーになりやすいテーマがある。

  • 学習参考書は自己啓発書に比べてロングセラーになりやすい。
    →学習参考書は「目的買い」をする本だが、自己啓発書は「衝動買い」をする本である。
  • テーマの探し方としては、①紀伊國屋書店のPublineで探したり、②書店の各コーナーで奥付をチェックしたりして探すとよい。

●『世界史の教科書』でのその他の工夫

  • 表紙は、冒険だが「○○っぽい」デザインはとらなかった。

    →コンセプトをよく表しているデザインにした。
  • タイトルは「○○○○○の世界史の教科書」と決めていた。

    →「なぜ、この本を買おうと思ったのか?」という読者と本の「接点」に注目して決めた。

<感想>

 鯨岡純一さんの『一度読んだら絶対に忘れない世界史の教科書』(SBクリエイティブ)は、とても読みやすい本だと思います。
 私は、AmazonのKindle版を買いました(この際ということで、「経済編」も買いました。Kindle版だと、紙の本のほぼ半額で購入できます)。
 Amazonの内容紹介には、鯨岡さんが、「口コミ」に使ってほしいとして作られた図表などが使われています。
 そして、最初の『世界史の教科書』がベストセラーになり、その後「一度読んだら絶対に忘れない」シリーズがいくつか刊行されています。

 ここで紹介することも一種の口コミになってしまいますが、他社の歴史本と違う点として、①年号が一切登場しない! ②「主語」をできるだけ固定! ③豊富な地図で、ビジュアルでもわかりやすい! ④難しい概念や制度は、図解でフォロー!などが紹介されています。
 それに釣られたわけではないですが、私も学び直しに買って読んでみました。
 そして、ついでにYouTubeで山﨑圭一さんの「世界史20話プロジェクト」のいくつかを視聴してみました。

 確かに、この本を読むことで、一日で、ほぼ世界史のアウトラインを捉えることができます。
 もちろん、ある程度の世界史の予備知識があったほうがいいと思います。
 私は、一応、スタディサプリで、村山秀太郎さんの世界史を視聴していたので、最近の高校世界史のある程度の知識はありました。
 だから、余計スッキリと腑に落ちたのかもしれません。
 とにかく、わかりやすい世界史になっていると思いました。

 自己啓発書より、学習参考書のほうが、ロングセラーになりやすいというのは、納得できます。
 前者は、「衝動買い」の対象で、後者は「目的買い」の対象になるというのもその通りだと思います。
 その上、歴史本は、ロングセラーになっても、そんなに改訂しなくても済みます。
 その点、資格本などは、社会情勢によって増補改訂が発生します。
 だから、売れるとロングセラーになりやすいと思いますが、途中で大幅な改訂作業が必要になることがあります。
 学習参考書というのは、毎年、新しい学習者が登場してくるという読者の特徴があります。
 学校直販業者の教材などは、ある意味では超ロングセラーだと言えるかもしれません。
 そして、授業に使うという明確な目的が存在します。

 もちろん、鯨岡さんがつくった『一度読んだら絶対に忘れない世界史の教科書』は、口コミしやすく、テーマがロングセラーになる条件に合っていたから売れたということは言えますが、その前に、口コミで拡散できるような、内容構成になっていたことがポイントだと思います。
 だから、口コミで買った人が、読んで納得して、さらに口コミで拡散したのだと思います。
 もちろん、その意味では、口コミは大事であり、売れ行きに影響したと思います。
 そして、まさしく口コミ通りの読みやすい「世界史の教科書」でした。

 「売れる本づくり」というテーマでの講演を、AJECの編集講座でも何度か視聴しましたが、売れている本にはそれなりの理由があるということを理解することが重要なことだと感じました。
 漠然と執筆原稿を本にしたというのとは違う編集者の努力と工夫があります。
 高校教師のYouTuberである山﨑圭一さんを見つけ、そして本にする過程で多分、もっといろいろな葛藤や工夫もあったと思います。
それも語って欲しかったと思いました。
それはそれで、秘話と言うべきかもしれませんが……。
 それにしても、ベストセラー本は、編集者としては、一度手に取ってみるべきだと思います。
 特に編集者には、それだけの価値があると思いました。


(文責:東京オフィス 塚本鈴夫)