編集と印刷・のんびりコラム 「第1回 カラー印刷のお話(1)」

こんにちは。エディット企画ソリューション部の藤本です。

デジタルシフトによる書籍販売減や生成AIの進化など、出版・編集・印刷の世界は今まさに新しい時代へのシフトチェンジ真っ只中ですが、このコラムではちょっと古い時代に戻って、レガシーな編集や印刷技術をのんびり振り返ってみたいと思います。温故知新、何か次代へのヒントがあるかも。いや、ないかも(笑)。

 第1回 カラー印刷のお話(1)

いまや世の中の印刷物という印刷物が片っ端からカラーになりました。小中学校の教科書は当たり前のこと、高校の教科書までもが軒並みフルカラーのご時世です。あぁもったいない。多くの新聞も、そろそろカラーページとモノクロページが拮抗してきました。次はいよいよ小説がカラーになるのでしょうか(笑)。

ところで我々がカラー印刷と呼んでいるモノ達は、実は本当のフルカラーではありません。それを言ったら写真だってビデオで撮った映像だってそうなのですが、人間の目に見える天然色に対して写真やビデオが再現できる発色はずいぶん限られていて、印刷物で再現できる発色は更に限られているからです。

さすがの人間さまにも赤外線、紫外線など見えない色はあるのですが、それ以外は赤橙黄緑青藍紫と全部見えるわけで、われわれは広大な色空間を認識できるわけです。え?どの色も印刷物にあるじゃない?と言う人がいるでしょう。えぇ、あるのですが、例えば赤。春の日差しに輝くチューリップの鮮烈な赤。あれは普通のカラー印刷では再現できません。緑。日に透けるような若葉色。これも難しい。青。抜けるような濃い夏の空も苦しい。南国の海のエメラルドブルー。きつい。赤ん坊のプルプル素肌。あぁダメダメ。もっと単純なヤツで言うと、蛍光マーカーの色は総じて無理。

どれも印刷物ではうまく調整され似せられていますから、さもフルカラーに見えるのですが、実物と並べて見比べてしまうと、もうその差は歴然です。だから旅行ガイドでいい景色だなぁと気に入って出かけた現地の風景は、ガイドよりずっといいですよね。人でごった返していてうんざりというのはあるけれど(笑)。それは現地の風や音や光や、立体感や広がりが印刷物で表現できないからだけではなくて、ガイドの写真そのものも、色情報がずいぶん限られているからなんだと思います。

逆もありますね。雑誌で見たあの景色、現地で見たらそれほど鮮やかではなくてガッカリというケース。これはデジカメの写真や、その後の画像編集が「記憶色」をベースに脚色されているからです。空は「青」、木々は「緑」と記憶の中で言語化されてしまうと、人間の脳内では見た色が鮮やかな原色寄りに置き換えられてしまうのだそうで。それを見越して過剰な補正を受けた写真は、実物以上に鮮やかということもあるのですが、これは別の話。

さて、なぜ発色が限られているのか。それは印刷物のカラーは効率…つまりコストを追求して生まれたものだからです。さきほどのチューリップの鮮烈な赤、もしこれと同じ発色のインキを開発して印刷したならば、この色は再現可能です。若葉色も、素肌色も。でもそれでは一体何色のインキを用意しなければいけないんでしょう。そこで限られた原色を組み合わせて色のバリエーションを作りましょう、ということになります。

光の場合は赤緑紺、いわゆるRGBの調合で理論上ほとんどの色が作り出せます。RGB全色を全開で混合すれば白、RGを等しく混合すれば黄、というように。ただし黒はRGB全色を「照らさない」状態となり実に他力本願です。例えば映画館でスクリーンに映っている黒。それは映画が始まる前、白かったあのスクリーンの色です。それでも光の場合は色と色を完全に混合することができるので、かなり広い色空間を再現できます。スマホやテレビの画面、街のLEDパネルでも、画面を虫眼鏡で見ると、RGBのフィルタや光源が見えますよ。

※Bは一般的に青とされますが、ここでは敢えて紺としています

インキの場合は藍紅黄、いわゆるCMYが3原色です。Cはシアンで濃い水色、Mはマゼンタで濃いピンク、Yはイエローです。こちらも理論上はCMYの調合でほとんどの色が作り出せます。全色を等しく混合すれば黒、MとYを等しく混合すれば赤、というように。そしてインキの場合は白が全色「印刷しない」状態となり他力本願です。インキにおいて問題なのは、インキをどう混合するかということです。印刷段階でそのつど再現したい色に合わせてインキを混ぜ合わせていたのでは、1ページ印刷するだけで日が暮れそうです。

そこでカラー印刷では、インキを混ぜ合わせるのではなく、各色を細かい点にして紙面に印刷し、その密度と組み合わせで色を表現する方法を取ります。簡単に言えば目の錯覚を利用するのです。鉛筆や細いペンで、紙に細かい点をひたすら打ちまくり、そいつを少々遠くから見ると灰色のように見えます。この原理です。たとえばCとYをべったり重ね印刷して等しく混合すれば緑になりますが、Cを細かい点にして少し間引いてやると、間引いたCとYで黄緑が再現できます。目的の色を再現するため色をCMYの点に分けることを「分解」とか「分版」といい、コンピュータで計算されて生み出される点を「アミ点」とか「スクリーン」といいます。ルーペでカラー印刷物の写真なんかを覗くと、思いっきり見えますよ。

人の目をだますためには、この点があからさまに見えてしまわないことが大切ですから、一つ一つの点はだいたい0.15ミリ四方くらいのマス目を基準に大小させます。大きさを言い換えると、だいたい1センチに70個くらいの点が打てる密度、1インチに150~175個くらいの点が打てる密度です。これ以上細かくすると、紙の繊維や印刷機の精度との関係で、うまい色再現にならなくなってきます。最近は技術の発展で相当微細なものも出てきていますが。逆に荒い点にすると、それが見えてしまったり、見えないまでも粗さを感じるカラーになったりします。

  *   *   *

どんどん話が長くなりそうなので、今回はここまで。また続きのコラムで語ってまいります。編集、印刷業界の方には「何をいまさら」な話題ですが、ティーブレイクとしてお付き合いください♪