第7回AI・人工知能EXPOと第14回教育総合展(EDIX)東京に参加して

5月10日~12日の3日間、第7回AI・人工知能EXPOと第14回教育総合展EDIX東京が、東京ビッグサイト南展示棟と西展示棟で開催されました。私は、11日に参加しました。

今年のEXPOもまだコロナ禍の中にありましたが、昨年とは違って大手の企業も参加して、とても盛況でした。昨年は、教育総合展だけの参加でしたが、今年はAI・人口知能EXPOを中心としてセミナーなどに参加し、後半少し教育総合展に参加しました。会場としては、少し教育総合展のほうが広いかなと思いましたが、参加者はAI・人工知能EXPOのほうが多く、たいヘン混雑していました。

今回の最大の特色は、ChatGPTをはじめとして、生成系AIが昨年に登場し、まさにAIの第4次ブームが始まったときに開催されたということです。これは、教育も関係している問題でもあり、私としては、セミナーは、AI・人工知能EXPOのほうに参加しました。

今回は、参加したセミナーの感想を中心に報告し、全体の時代の流れのようなものを感じとっていただければ幸いです。聴講したセミナーは、

① 基調講演「デジタルリテラシーから始めるDX人材育成」

② 特別講演「生成AIの今と未来」

の二つです。簡単な内容紹介と、生成系AIについて、面白いなと思ったことを紹介します。

Ⅰ AI・人工知能EXPO基調講演「デジタルリテラシーから始めるDA人材育成」

【モデレーター】

デジタルリテラシー協議会事務局/日本ディープラーニング協会プロジェクトアドバイザー/慶応義塾大学システムデザイン・マネジメント研究科研究員 小泉誠氏

【発言者】

(一社)データサイエンティスト協会代表理事 高橋隆史氏

(独)情報処理推進機構顧問 富田達夫氏

(一社)日本ディープランニング協会特別顧問/東京大学未来ビジョン研究センター客員教授  西山圭太氏

◆発言要旨

① ここ数年でデジタルリテラシーに関して、社会、企業、組織はどう変わったか?(また新たな課題は?)

高橋 企業の内製化が進んでいる。専門分野では、格差が進んでいる。DXは国際的には日本は最低に近い。

富田 DXという言葉は浸透してきたが、D(Digital)は進んでも、X(Transformation)はまだまだ。ITパスポートは2023年に応募者が25万人を超えた。IT企業でない企業からの参加が増加している。

西山 デジタル(D)を使わないということはありえないという認識が必要。課題はビジネスの変更(X)が問題で、仕事を変えずにDXはできないという認識が必要。

 (参考) 病院の例:iPhoneを全員に持たせたら、仕事の仕方変わった。

高橋 金融は進んでいる。データがあるので、やればできる。社内のインフラができていないとデータが残らない。環境を整えて、人材を育成することが大事。

富田 大企業では、一部の部門にやらせるが、それは危険。実際は、仕事はすべてデジタル化されている。DXは仕事を変えることであり、それをトップが意識することができるかどうか。

西山 DXとは変えるためにある、何を変えたいのかを明確にすることが、大事。

② 使って作るとはどういうことか? なぜそれが重要なのか?

西山 全員が使えることが大事。データが多いのであれば、仕える技術がなくてもデジタル化の利用が簡単にできるようになる。ChatGPTではいろいろなツールもできる。ITパスポートなどでも必要ならChatGPTをとりあげる。

富田 大きなシステムの場合は、マニュアル化されればよい。しかし、個別のものは、デジタルデータをどう利用するかがAIの利用に移行し、「作る」が大きく変わり、自分たちでできるようになる。

高橋 外注費のコストが上がっているので、これからはAI使って作ることがしたい。使えるスキルをどう身につけるかが大事。

③ 生成AIでどう変わるか? 逆に変わらないことは? 人材育成、産業、人間、社会……

高橋 使える人と使えない人との差ができる。何が課題なのかを考えることが大事になる。

富田 いままで検索という行為でやっていたことが、ChatGPTがやってくれ、自分の知的プロセスが試されるので、少し怖い意味もある。ChatGPTがどうしてそういう結論を出すことになるのか知ることが大事。使う国と使わない国との違いも出てくる。

西山 働き方が変わるし、セルフマネジメントが大事になる。怖い話として、どんな仕事がなくなるかという問題はある。上司と部下という関係がなくなるかもしれない。また、自分の専門でない分野についての知が簡単に入手できるようになる。

④ まとめ

司会 デジタルリテラシーをしっかり、全員がみにつけること。

高橋 人が減っていくなかで、生成AIができたことでチャンスが生まれる。

富田 多くの人がDXに関心を持つことが大事。チャレンジ精神で。

西山 なぜリテラシーが必要かをみんなに教えてほしい。

Ⅱ AI・人工知能EXPO特別講演「生成系AIの今と未来」

Stability AI日本チーム代表 ジェリー・チー

Stability AI

私たちは人類の可能性を広げるための基盤としての生成AIを構築しています。

◆発言要旨

① なぜ、日本にチームを置くのか

・Stability AIの日本チームができたのは、日本に特化したAIを作成したいからである。日本は、「ドラえもん」の国であり、AIに抵抗がない。

② Stable Diffusionの使い方

・画像生成のバリエーションを増やしている。

・解像度をあげることができる。

・話すこと(プロンプトの追加)によって画像修正ができる。

・動画を作成し、話すことができるようにできる。

③ AIトレンド

・論文と特許が増加している。いろいろな共同体制が作られている。Stable Diffusionは、AWSと共同体制を取っている。

・シナリオA(寡占化)×シナリオB(AIの民主化)の二つのシナリオが進行中。

→現在は、後者になると見ている人が多い。理由は、利用に参入障壁がないから。

・AIの出力を利用する開発が可能になり、クリエイターが増加している。

・いろいろな生成系のモデルの数の増加している。

④ 課題として(オープンなら解決するすると思われるが)

・テキストの表現の正確性がない→他のAIも利用。

・生成過程がブラックスボックスであること。

・データなどをどこに置いておくのか。

⑤ いま起きていることの意味(パラダイムシフト)

・生産性が上がる。

・テキストと画像(得意なものを生成)が簡単にできる。

・自然言語でコードが書ける。

・いろいろなアシストができるようになってきた。

・誰もが生成物を作れるようになり、クリエイターになれるが、評価スキルがいる。

※参考「Stable Diffusion」開発元 Stability AI の日本チーム代表ジェリー・チー氏が登場!日本市場での施策、AIと仕事について語る。

https://cgworld.jp/article/202304-stablediffusion.html

<感想>

 現在ChatGPTのことが話題となり、文部科学省も教育のなかで、どのように対処したらよいか審議会で検討中になっています。岸田首相の動向を見ていると、積極的な活用を奨励しているようで、そうした動きの中で、どう教育に活用していくかが問題になりそうです。奇しくも、AIと教育の会場は、南展示棟、西展示棟に分かれましたが、AI・人工知能EXPOと教育総合展が同時開催されました。私は、ChatGPTなどの生成系AIの取扱いの仕方がどうなるかを中心にして、参観しました。

今年の展示会場は、まだコロナ禍のなかという雰囲気はありましたが、昨年のより、緊張感がなかった気がします。まず、セミナーを中心として、南展示棟のAI・人工知能EXPOに参加しましたが、とても混雑していて、セミナー会場に行くのも大変でした。セミナー後は、少し会場を回りましたが、ChatGPTの影響はありました。デジタル人材育成支援EXPOの会場では、ChatGPTの活用支援などのプロモーションも行われていました。

とちゅう昼食を挟み、二つのセミナーに参加してから、後半は、西展示棟に移りました。こちらは、南展示棟より、広い会場で、人も少なかったようです。いろいろな大手の企業も参加していましたが、ChatGPTの活用についてはまだ慎重のようです。多分、文科省の答申などが出てから動きが本格化するものと思われます。むしろ、GIGAスクール構想がかなり浸透し、子どもたちが一人一台の端末を持つようになり、教育のITかがどう進んでいるかの紹介が多かったです。

Google Educationの会場の30分ほどのセミナーに参加しましたが、奈良県がGoogle Cloudを利用して学校のIT教育を充実されている話は興味深かったです。採用の流れなども紹介されていましたが、Cloudを活用するという点が、奈良県が全体としてGoogleになったポイントのようでした。これからは、教育もCloudを前提として活用されることになりそうです。ちょうどこの日に、GoogleからGoogle Bardの日本語版の公開がなされましたが、今後、それをどのように活用するかが話題になりそうです。まだ、GoogleAIについてはこのセミナーでは触れられていませんでしたが、日本のGIGAスクール構想のなかで半分近いシェアともっているGoogle for Educationだけに、気になるところです。

 東京書籍をはじめとする教科書会社も、今年は出展していましたが、デジタル教科書とそれに伴う教材の話が中心でした。それにしても、それぞれの人に聞くと、ビューアーがいくつかに別れていることは、不都合なことのようでした。そのことが、デジタル教科書の普及を阻んでいるわけいではないでしょうが、デジタル教科書はまだまだあまり使われていないようです。教師用デジタル教科書は、ひっそりと使われているようですが、教材の活用という点では、いまいちという印象でした。AIについても考えているようですが、授業の中でどう活用することになるのかは、これから考えることになりそうです。

 一応、ChatGPTから始まり、Bing AI 、Google BardとAIのLLMモデル(大言語処理モデル)を使った自然言語処理による生成AIが三つ並びました。これがどのように活用されることになるのか、興味深いところです。APIを利用したサービスの開発も活発です。ChatGPTではすでにたくさんのプラグインが発表されていて、いろいろな活用が工夫されています。多分、MicrosoftもGoogleも新しいサービスを直ぐに追加してきそうです。

まだ、ChatGPTが登場して半年です。プロンプトエンジニアリングには、ある種のプログラミング的な思考が必要です。もし、子どもたちに間で使われるようになると、小学校の低学年からは無理かもしれませんが、ひょっとすると、児童・生徒の中には、それらをうまく操り、起業する動きも出てくるかもしれせん。特に画像生成AIなどの世界では、アニメ大国の日本としてはどうなるか、期待と不安が相半ばしています。

ところで、ChatGPTが出現して、私がいちばん驚いたことは、インターフェースが自然言語になったということです。質問あるいはプロンプトが必要なのは、GPTというのが次にどんな言葉がくるとよいのかを確率的に判断して文章を作成しているので、それに文脈を与えて方向を決めてあげることが必要だからです。だから、より妥当なあるいは適切なプロンプトを与えると、よりよい文章が得られることになります。コンピュータに何かをさせるとき、普通はプログラミング言語を使って行っています。それが、自然言語でできるというところが素晴らしいと思いました。ある意味では、うまく会話できれば、いろいろなことが素人でもできてしまうということです。

Stability AI日本チーム代表のジェリー・チーさんは、AIの世界は、民主化されていくとおっしゃっていましたが、その点では、私は多少悲観的です。GAFAMなどの大手プラットホ-マーと大きなデータの活用や投資が可能な大手企業が優位なのは変わらないと思います。しかし、ChatGPTのようなサービス(Google検索やアプリの利用など)は、あくまでも個人が使うものです。その個人が参加する敷居が低くなったことだけは確かです。専門的な知識よりも、一般的な教養と言語力が重要になってきます。その意味では、ユーザーにとっては、民主化されているのかもしれません。

 ChatGPTは、システム上、正しいとか正しくないかとかは、考えませんし、知りません。(ただし、ChatGPTは、ファインチューニングして、一応ある程度、言っていいこととそうでないことは判断していますが)質問に応じて自分が適切だと思うことを返してくれるだけです。しかし、それでもびっくりするほどの知的作業をしてくれます。いくつかのプログラミング言語では、課題に応じて、プログラミングをすることさえやってくれます。そして、条件さえ適切に与えれば、アイデア出しもできます。いつの間にか、AIはここまで到達しました。

多分、いったん公開されたテクノロジーには後戻りはないので、私たちはそれをどう使うかが問題になります。車の運転でさえ、今やAIにかなりの部分を頼るようになってきています。それが、自然言語の世界に介入し始めたわけです。言葉を使う仕事は、あるいは学習は、必ず影響を受けます。書き手や編集者などは、その最たるものです。AIとどう共存していけばいいのかを考えない人は、多分、AIによって取り残されていきます。囲碁や将棋の世界では、AIと共存できない人は、いまやプロにはなれません。セミナーを聞いていて、そんな印象をもちました。

(文責:エディット東京オフィス 塚本鈴夫)