AJEC5月編集講座「読むから聴くへ~オーディオブックで拡がる本の可能性~」を受講して

【講義内容】

◎オンライン講座

 「読むから聴くへ~オーディオブックで拡がる本の可能性~」

      講師:岡田朗考(おかだ・あきたか)氏

        パンローリング(株)マルチメディアコンテンツ制作部部長

                ディレクター/アクティングコーチ

                (一般)日本アクティングコーチ協会(JACA)会員

     【講師略歴】

日本大学芸術学部演劇学科演技専攻卒。

2005年のオーディオブックを含むメディアコンテンツ制作事業部の立ち上げから現在に至るまでの制作事業責任者。契約出版社数は150社以上、5,000コンテンツ以上にも及ぶ社内制作実績のオーディオブックひとつひとつを丁寧に監修、企画制作をプロデュースし、レコーディングにおいては、演出、ディレクターとして従事。同社オーディオブック独自の作品品質(演出)追求のために、2013年より、声優・俳優事務所数社にて恒常的に講義を実施。また、俳優、声優、ナレーター、朗読家と垣根を越えた「演者」育成のためのクローズドのプライベートワークショップも主宰。

演劇のメソッドをベースにした原稿読解方法、コーチングで、わかりやすく聴きやすい喋り、語り、演技を教えている。

<講義内容>

●オーディオブックとは

・定義

→狭義:書籍、テキスト情報などを音読した音声コンテンツ

→広義:声モノコンテンツの総称(落語、講演、オーディオドラマ、怪談、講談、漫才、対談など含む)

・どのように使われているか

→通勤、通学、営業などの移動中/家事(掃除・洗濯)をしながら/リモートワークしながら/食事、ジョギング、筋トレしながら/ラジオの代わりに/入浴中(半身浴)/就眠前

●どこで、どのように売られているのか(配信、販売)

・アラカルト/サブスクリプション配信/CDパッケージ流通販売/電子図書館配信/図書館CD販売

●オーディオブックのマーケットデータ

・2028年には197億米ドルに達する模様(KBV Research2022年)

・成長要因は、コロナ禍や自動車、スマホなど普及(機器でのダウンロードが95%)

・Amazon Audibleの聴き放題のユーザー数が50%増、国内の総聴取時間は2.8倍に(2023/2.2プレスリリース)

→アマゾンは全世界で数百万人以上のユーザー数

●人気ジャンルと売れ筋

・世界…1位「ミステリー・スリラー」、2位「SF・ファンタジー」、3位「文学・フィクション」

・日本…1位「文学・ファンタジー」(60%)、 2位「健康・ウェルネス」、3位「SF・ファンタ次-」

→「アート・エンタ-テインメント」も43%と世界各国と比較しても高い数字

●オーディオブック製作

◆選考基準

・どのような本がオーディオブックに向いているのか

・情報と体験(フィクションかノンフィクションかを越えて)

・機械音声との共生(ディープラーニング)、感情らしきもので事足りること

→「音声は発話者の感情を隠すことが難しい」(マイケル・クラウスの研究)

 ※表情はさまざまな感情表現の機能を持っているが、実際の感情を隠すこともできるが、音声は嘘をつくのは難しいということ

●オーディオブック特有の表現

・独自の演出にこだわる必要性

→「目で読むために整理された文字」をしゃべるというタスク

・何を目的として製作するのか(人が喋ることの優位性)

→「朗読」「ナレーション」「音読」「意訳」「キャラナレ」の違い

●すべては『願い』のために

・作品の願いとリスナーの願いを結び付けること

→文字言語を音声言語に変えるには、演劇的なアプローチが必要

→演技はDoではなくてBeであるということ

<感想>

 私は、残念ながらAmazonのAudibleの聴き放題の会員にまだなっていません。本の読み放題(Kindle Unlimited)とPrime Video、Amazon Musicの会員ではあります。Amazon Audibleの聴き放題の会員になって、村上春樹の長編を聴いてみたいとは思っています。いまのところ、長編は時間的に少し無理そうですが。また、村上春樹を「ながら聴き」するのは、難しいと思います。BGMにもならないように思います。

岡田さんのいう広義のオーディオブックなら、私はよく聴いているほうだと思います。疲れたとき、ソファに横になってしばらくNHKの「朗読の時間」を聴いたり、寝る前に、「らじる・らじる」で聴き逃しの番組を聴きながら、眠ったりしています。いちばんよくするのは、通勤時間にラジオを聴くことです。片道1時間以上電車に乗っていますが、電車の中で活字を読むと疲れるので、読書の代わりでもあります。最近だと、NHKラジオの「らじる★らじる」の古典講読で、東京大学文学部教授鉄野昌弘(朗読・加賀美幸子)「歌と歴史でたどる『万葉集』」をすべて聴きました。1回45分で50回ものでした。毎週1回の配信でしたので、1年がかりの講義でした。『万葉集』の学び直しです。

最近、ラジオが復権してきたような印象があります。いちばん大きな理由は、インターネットで聴けるようになったことだと思います。オーディオブックも、インターネットのおかげで伸びてきたのだと思います。ネットにアップされることで、いつでもどこでも、聴くことができます。また、Amazon Audibleの聴き放題や、YouTube動画も便利です。YouTube動画は、著名人の講演などがアップされていますが、こういうものは音声だけでも聴けます。

Amazon Audibuleにオーディオブックを製作して提供している会社としては、

メディアドゥ (https://mediado.jp/service/3030/)、

スマートゲート(https://www.smartgate.jp/solution/audiobook/)、

オトバンク(https://www.otobank.co.jp/company/

などがあります。また、最大の製作数を誇るKADOKAWAなどのような版元が独自にオーディオブックを作っている場合もあります。

パンローリング(https://www.panrolling.com/pr/aboutus-jp.html)は、1991年に設立された会社で、個人投資家向けの出版、セミナー開催、ソフトウェア開発を提供していました。その後、2006年よりオーディオブックを刊行するようになり、岡田さんが事業責任者として、活躍されています。(事業展開の仕方は、講師略歴を参照してください。)岡田さんは、作品の品質を向上させるために、2013年より、声優・俳優事務所数社にて恒常的に講義を実施し、俳優、声優、ナレーター、朗読家と垣根を越えた「演者」育成のためのクローズドのプライベートワークショップも主宰しています。

岡田さんは、オーディオブックを製作する原理を「演劇のメソッド」の「演出」と「演技」としてとらえ、オーディオブックでの「演技」は、「DoではなくてBeであるということ」を強調されています。「表情」が見えず、「音声」だけの世界をどう演出するかが課題になっているわけです。質にこだわる岡田さんの考えは、興味深いです。この辺の岡田さんの話は、私たち編集プロダクションでも、いろいろな音声教材の作り方に役立ちそうです。

いま話題のアニメに『すずめの戸締まり』があります。私は、まだ見ていませんが、深海誠著『すずめの戸締まり』という小説は読みました。『言の葉の庭』、『君の名は』、『天気の子』を見てきたものとして、何となく、映像が想像できそうですが、見るのが楽しみになっています。映画では、「見てから読むか、読んでから見るか」とよく言われますが、入り方として違いがあるような気がします。最も、新海誠の場合は、すでに前作を見ているので、その発展型を考えることになりますので、どちらからでもいいかもしれません。しかし、新海誠の小説は、深海誠のアニメの解釈に与える影響が多そうですし、逆もあり得ます。言葉で表現できないものと映像で表現できないものをそれぞれが補足しているような関係です。

Bing AIは、音声言語と文字言語に、次のような違いがあると言っていました。

──音声言語と文字言語の得意分野は異なります。音声言語の短所は文字言語の長所で補うことができ、文字言語の短所は音声言語の長所で補うことができます。例えば、音声言語は、声が届く範囲で使う方法であり、すぐに消えるので、その場限りの情報のやりとりに適しています。特別な学習も道具も不要なので、教育を受けてない相手や緊急時にも使えます。一方、文字言語は、物理的な距離とは無関係に情報のやりとりができ、複雑な内容を永続的に残すことができるので、会ったこともない知らない人や未来の人にも情報伝達ができます。

形式的にはその通りだと思います。もともと、人間が音声言語を使うようになったのは、8万年くらい前だと言われていますし、文字が使われるようになってから1万年もたっていません。日本語の場合は、1500年くらいしかたっていません。日本の文字の理解や活用は、多分、初めは、中国の文化を受容するためであり、その次に、記録であり、その後日本語独自のかなが作られ、漢字の音読み・訓読みが行われるようになって、和歌や物語の創作につながったと思われます。とにかく、音声言語としての母語は、日本語の中で育てば自然に身につきますが、文字言語は学習しなければ身につきません。

文字言語の多様性は、手紙(メール)や日記、メモ、SNSでの記事、さらには落書きなどを除けば、いわば「本」に代表されると言ってもいいと思います。そこにあるさまざまな種類の本が文字表現の多様性を教えてくれます。本とは何かというと、特定の読者ではなく、一般的な他者(読者)のために書かれたものだと言えます。しかし、読者は、「これは私あてのメッセージだ」と思って読むわけであり、そうでなければ、読むのを辞めます。読者は、読みたいものを読むのであり、本の作り手は、読者の読みたいものを書くことになります。優れた作者とは、自分の書きたいことを、読者に読みたいと思わせることができる人です。あるいは、読者の読みたいことを、自分の書きたいことにできる人とも言えます。

オーディオブックというのは、普通は、文字言語として作品が成立しているものを音声言語として表現し直したものだと言えます。そのとき、お互いに不足しているものをどう補うかが問題になります。それぞれの言語では必要でないが、他方の言語にしたときに必要となる表現をどう考えるかです。そして、その核心にあるのは、いかに聞き手に聴きたいと思わせるかということであり、聴いてよかったと思わせることだと思います。そのための工夫が、岡田さんの講演の核だったと思います。

おそらく、論理的な文章と、文学的な文章では、表現方法が変わると思います。前者では、わかりやすい語り口が、後者では登場人物の感情に合った語り口が使われたりします。ただし、感情表現を入れるためには、読解力が必要であると同時に、声の演技力も必要です。また、それが感情であるがゆえに聴者の感じ方も変わってくるし、好みも多様になると思われます。私は、上川隆也の高村薫の作品の朗読が気に入っています。でも他の人は、声優の岡野浩介がいいと思うかもしれません。そこがオーディオブックの編集者(演出家)の力の見せどころだと思います。

 

 オーディオブックは、まだまだこれから発展していくジャンルだと思いますが、いろいろと編集者として考えてみる必要がありそうです。岡田さんの演劇とのアナロジーでオーディオブックの製作を考えるというのは、とても優れた発想だと思いました。これは、すでに市民権を得た「YouTube動画」の作成にも通じるものだと思いました。また、私たちの仕事でもある教材としての「動画」の作成にも役立つものだと思いました。そして、個人的にも、文学作品のオーディオブックを改めて読んでみたい気持ちになりました。                      (文責:東京オフィス 塚本鈴夫)