「NexTechWeek2026春」セミナー「AI活用加速のためのガバナンス強化」レポート

  • イベント名: NexTechWeekセミナー(国際展示場)
  • セミナー開催日: 2026年4月16日
  • 登壇者: 八木 聡之 氏
          (日本ディープラーニング協会 理事)
          柴山 吉報 氏
          (日本ディープラーニング協会 有識者会員・弁護士)

春のこの時期は、秋と並んで生成AI系の展示会・博覧会が続きます。この日は東京ビッグサイトで開催中の「NexTechWeek 2026春」で、表題のセミナーを聴講してきました。技術的な話ではなく、生成AIの法的な扱いについて専門家の見解を伺う目的です。

意識すべきは「個人情報保護法」と「著作権法」

登壇された八木氏は、日本ディープラーニング協会(JDLA)の理事であると同時に、教育コンテンツでもお馴染みの富士ソフトの常務であり、生成AIの利活用を含む技術部門を統括されている方。柴山弁護士は、総務省「AI事業者のガイドライン」の検討委員でもあった方で、現在は政府のAI利活用アドバイザリーボードの一員をされている方です。

生成AIを利活用していく上で、法的に避けて通れないのが「個人情報保護法」と「著作権法」です。今回は八木氏と柴山氏の対談の形で、生成AIとこの2つの法律との関係性について、JDLAとしての見解を整理されました。生成AIの業務利用に取り組むとき、誰もが一度はぶち当たる「この生成AIの使い方って、OKなの?」の壁。編集者としても最新の知見を得ておきたいですよね。

現在も、多くの企業では生成AIを利活用するにあたって、法務部やら部長やらからブレーキがかかってしまうことが多いそう。そのほとんどは「法的なNGラインとリスクとの境界」があいまいなまま、判断を避けがちだからだそうです。確かに石橋を叩き、他社の出方や法令の改正、具体的な判例を待っている限り、これらの法律と生成AIとの関係は限りなく「利用NG」に近づいていくわけですが、AIの急速な社会、経済への浸透を考えるとき、「大手を振って使えるまで待つ」という慎重に過ぎる判断は、他社との大きな差を生んでしまいかねません。

個人情報保護法との相性は最悪?

話は個人情報保護法との絡みからスタートです。「個人情報」はその名の通り「個人についての情報」であり「個人を特定しうる情報」です。例えば顧客リストを生成AIに入れて性別や年齢層別の売れ筋分析をさせたい、といったときに、お名前やID番号、住所電話メアドが入ったリストを扱うのはもちろんNGとして、では名前とIDと住所電話メアドを削ってAさんBさんと置き換えたらOKかというと、残りの情報にいつ・どんな商品を・いくつ、とあれば、これを元情報と突き合わせることで容易に照合ができてしまう場合は、やっぱりこれも個人情報であり、NGだ、という話になるのだそうです。

個人情報保護法では、個人情報を第三者に提供する場合にはそれぞれの本人の同意を得なければならない、とされているので、多くの企業はここで「だめだ、使えない」と挫折してしまうのだそうです。

杓子定規に考えるとその通りで、生成AIと個人情報保護法の相性は最悪とも言えるのですが、実はその判断は早計のようです。そもそも個人情報を生成AIに与えることが「第三者への提供」なのかどうかを意思を持って判断し、リスクを取る姿勢が大切だとお二人は述べておられました。「第三者への提供にあたらない」と言うためには、ちょっと屁理屈っぽいですが、「AIは第三者ではない」という考え方と、「AIに与えることは提供ではない」という考え方が法的には成り立つようです。

さすがに前者は、AIといえども第三者扱いとする法的判断が強くて勝ち目があまりないそうですが、後者は「提供」ではなく「委託」なのだ、と考えることができ「第三者への提供」にあたらない、という判断もアリなのだそうです。

誰かのお墨付きを待っていても始まらない

ただし「委託」であるならば、委託先がセキュリティー上問題がないことを依頼主として確認することが必要になるのですが、ここをクリアすれば「私たちの会社は利用するAIの安全性を確認した上で(リスクをとって)個人情報を扱います」と判断することができる、という話でした。JDLAでは少なくともChatGPT、Gemini、Copilotについては各社のリリースと規約を調べ上げたうえで、委託にあたってDPA(Data Processing Agreement:データ処理契約)上の問題はない、と判断しているそうです。まぁ判例ではないので絶対ではなさそうですが。

つまり個人情報の扱いについては、信頼のおけるAIサービスを選んで会社としてルールを定め、腹を括って使う分には問題ないのでは、という話でした。「だって既にOutlookのメールもGmailもAIが『お返事案考えましょか』と言ってくるじゃないですか、これ、個人情報だらけのメールがすでにAIと接続されているということですよね」というお話を聞けば納得です。

著作権上の論点は3つ

さて本丸、生成AIと著作権との絡みです。柴山弁護士は論点を3つに整理されていました。
 ① AIによる生成物は保護されるか?
 ② AIに第三者著作物を入力してよいか?
 ③ AI生成物の依拠性は?
エディットの「編集者のための生成AIハンドブック」にも著作権のことは詳しめに書いているので、論点や判断が違ってたらどうしようかとドキドキしていたのですが、幸いなことに大丈夫でした(笑)。みなさま、どうぞ安心してハンドブックをお読みください。以下、順番に答え合わせです。

①の「AIによる生成物は保護されるか?」については、「基本的に保護されません」というのが回答でした。聞いていてちょっとハラハラしましたが、続いて「ただし、プロンプトに創意工夫を凝らして汗をかいたり、何度も試行錯誤を繰り返して生成物の質を高めたり、多くの候補から人の目で採用すべきものを決めたりする『創作的寄与』があれば、保護される可能性があります」とのこと。法的には「されない」が原則で、「される可能性」はあくまでも補足なのですね。

ハンドブックに書いた「人によるチェックを通して、人が修正し人が書いた文などがミックスされることによって著作物としての主張がよりしやすくなる」という点については今回は触れられませんでした。

著作物は入れてもいいけど出すものに注意

②の「AIに第三者著作物を入力してよいか?」については、「著作権法30条-4の規定で認められているのでOK」との回答。おお〜、言い切った!と少し驚きながら聞いていましたが、これもさっきと同じ法律構文で「ただし、生成目的が情報解析である場合に限ります。享受目的の生成はNGとなります」とのこと。享受目的というのは、パクリや依拠性のあるものを生成させて、それを読んで味わうとか、見て楽しむとか、そういった使い方を目的にするということです。

なんだかうまく説明できなかったのでAIくんに説明してもらいました。──「享受目的とは、著作物の視聴などを通じて、視聴者等の知的・精神的欲求を満たすという効用を得ることを目的とした行為のことです。具体的には、音楽を聴く、本を読む、映画を鑑賞するといった、著作物の内容を本来の用法に従って精神的・感覚的に味わう行為を指します」──くぅ〜、何倍も上手な説明に脱帽です(泣)。

まさに、例えば第三者著作物を生成AIに添付するところまでは、法的にはOK。ただし、それを基に他の原稿が類似していないか、など合致、不一致の判定をさせるとか、学習コンテンツであれば未習既習のチェックをさせるとか、表記の一致不一致を確認するとかいった使い方は、情報解析にあたるのでOKだけれど、そっくりなコンテンツを生成させるとか、著作物のフレーズを使ったコンテンツや問題、クイズなどを作るとかは享受目的になるのでNG、との法律判断になるいうことですね。

わりと怖い「依拠性」の判断

③の「AI生成物の依拠性は?」については、ちょっと判断が難しい感じでした。ちなみに「依拠」について…説明はAIくんに任せましょうか。──「著作物の『依拠』とは、新しい作品を創作する際に、既存の他人の著作物を認識・アクセスし、それを土台(参考・素材)にして作品を作ることです。著作権侵害が成立する必須要件の1つであり、偶然似てしまった場合(偶然の暗合)は依拠がないため侵害になりません」──だそうです。

先ほど②でも触れた、生成AIに著作物を読ませて類似物を生成することは、まさにこの「依拠」にあたるNG行為です。生成AIの利用者がそのような生成結果になることを認識していたり、その意図をプロンプト等で表していたりする場合は「真っ黒」なNG。そうなるとは知らず、結果的に生成物が類似であった場合も、依拠性は問われてNGになるとのこと。さきほどのAIくんの説明では「偶然似てしまった場合は侵害にならない」でしたが、これは生成AIがなかった世界での話です。生成AIの説明なのにね(笑)。

例えば生成AIに「黄色い電脳ネズミを描いて」と「たまたま知らずに」指示をして、出てきた画像がほぼピカチュウだった場合、これは生成AIのLLMを作った会社が機械学習の時点で大量のピカチュウの画像を解析させていたであろうことが容易に推測されますから、たとえ利用者にその意図がなかったとしても依拠性があると判断されるわけです。「私は知らなかった」では済まされないのが生成AIにおける「依拠性」の怖いところです。

実務上、とくに画像やイラストの場合は、ものによっては生成後、画像検索などで一致物がないかを確認しておいた方がよいですね。

「〇〇風」なら問題ないか

一方で「〇〇風に」と指示してイラストを生成させた場合の「作風」は、日本の著作権法上は「アイデア」とされ、違反とはみなされません。それゆえ世の中には「ジブリ風」の生成イラストが溢れているわけですが、柴山弁護士曰く、「ジブリの作品は映画のひとコマまで考えるとそれこそ無数にあるので、〇〇風のはずが、その全部または一部が著作物であるジブリの作品と一致してしまうことがないとは言えません」。確かにそうかもしれませんね。

そして八木氏のトドメ。「法的に〇〇風は問題ないとして、企業として〇〇風のものを使うかどうかはまったく別の問題。少なくともうちの会社ではNG。これこそがきちんと『リスクを判断する』ということ」。心に留めておきたい考え方です。前半で、世のお墨付きを待っていては何もできないという趣旨の話がありましたが、判断保留の企業に限って、法的にOKだとわかると後先を考えずに使い始める傾向があると。使うも止めるも、会社としての価値観と道徳感、他者・他社への配慮を持ってリスクを取った判断をしなければならない、ということだと思います。

そうそう、講演の冒頭で八木氏が「この展示会にたくさんあるセミナーの中から、一番地味でつまらないテーマを選んでいただいてありがとうございます」と仰ったつかみが面白かったのですが、本来は最新技術に踊らされる前に「生成AIでできること、すべきでないこと」をしっかり考えるべきであるし、それがとっても大切なのだと思います。このセミナー、直前に開催会場が変更になるほど、たくさんの人が聴講していました♪

おまけ

このレポートは、ビッグサイトのすぐ近くにある「カフェ・ヴェローチェ」で書いています。このお店、夏と冬のコミケのときには超絶に混雑することで有名で、その接客のために、コミケの時だけ全国の系列店から凄腕の店長が集結して互いの目配せでベストな動きをしつつ日本一、いや世界一の客さばきをすることで知られます。

今日はコミケほどではないにせよ展示会帰りのお客さんでレジ前は長蛇の列だったのですが、わずか3人のスタッフさんが無駄ひとつない接客と飲食提供の連携プレーで、すばらしいスピードを(当たり前そうに)発揮していました。ぬるい仕事してちゃダメだなぁ〜と、ちょっと襟を正したくなる瞬間でした。

(企画ソリューション部 藤本)